臨床環境学の手法を応用した 火山防災における 課題解決の開発

地域防災対策支援研究プロジェクト

プロフィール

臨床環境学の手法を応用した火山防災における課題解決法の開発

課題名

臨床環境学の手法を応用した
火山防災における
課題解決法の開発

地域名

岐阜県、長野県、石川県

団体名称

名古屋大学大学院環境学研究科

代表者名

山岡耕春(名古屋大学・地震火山研究センター)

参画者名

  • 中村秀規(名古屋大学・持続的共発展教育研究センター)
  • 杉下尚(岐阜県 山岳遭難・火山対策室長)
  • 平松良浩(金沢大学・教授)
  • 大見士朗(京都大学・准教授)

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2016年10月26日 焼岳火山防災 地域学習会・意見交換会を開催しました


■焼岳火山防災 地域学習会・意見交換会
■日時:2016年10月26日10:30-16:30
■場所:長野県松本市 グレンパークさわんど
■学習会講師:福島大輔氏(NPO法人桜島ミュージアム)

 本プロジェクトでは昨年度、焼岳、御嶽山、白山の各火山地域で、火山防災協議会のメンバー等を対象にしたワークショップを実施してきました。このようなワークショップが、参加者にとって組織・立場を背負わずに率直な意見交換ができる場となりつつあります。本年度は、このような意見交換の場を地域の現場に拡げ、地域防災のキーパーソンとなるステークホルダー(利害にかかわる関係者)を見出すために、地域学習会・意見交換会を行いました。

 地域学習会・意見交換会の第一回目となった焼岳のワークショップには、行政防災担当者や火山噴火対策協議会のメンバーの他、旅館組合、観光協会や山小屋、町会、遭難対策協議会の関係者等の地域ステークホルダーが参加し、参加者数が52名にのぼる盛会となりました。

 

  午前中の学習会の講師は、行政担当者の学習会でもご講演いただいたNPO法人桜島ミュージアム理事長福島大輔氏にお願いしました。2015年8月桜島で噴火警戒レベルが4となった時の現地の様子やその対応を中心に、火山の観光地における風評被害と平常時、発災時、発災後の情報発信について、ご講演いただきました。

 

   桜島ミュージアムは、桜島を丸ごと博物館にするというコンセプトで、ビジターセンターの管理運営、修学旅行向け体験プログラムの提供等、体験型観光の総合コーディネートを中心に地域に密着した事業・活動を展開している観光NPOです。桜島は日常的に噴火警戒レベルが3となっている活発な火山ですが、全国への報道のあり方によって、急に噴火が起こったように誤解され、観光客が減少する風評被害がしばしばあります。そうした際に、観光業者は「安全です」とアピールしてきました。しかし、2015年8月の噴火警戒レベル4に際して、従来のように「安全です」と言うだけでは、観光客の不安を解消できないと福島氏は考え、行政や観測機関に積極的にアプローチして情報収集を行い、観光客や住民が求める情報をSNSなどでわかりやすく正確に発信しました。発災時(応急対策期)、発災後(復旧復興期)に信頼できる情報発信元となるには、日頃からの情報発信によって信頼されることが大切とのことでした。焼岳は上高地という日本有数の観光地をかかえており、地元観光関係者を含む参加者にとって、観光NPO代表である福島氏の体験に基づくお話は、大変参考になるものでした。

 午後の意見交換会では、観光業を中心とする地域事業者、住民の方々と火山防災協議会関係者が火山防災の現状を共有するとともに課題、背景、解決策についての意見を交換しました。それぞれ「平常時」、「応急対策期」、「復旧復興期」の課題について2グループずつ、計6つのグループに分かれて話し合いました。1グループは5-8名で、少なくとも1名は地域ステークホルダーが含まれるようにグループ分けを行いました。




 平常時については、上高地での最大被害想定がなされておらず、避難計画を現状に即して見直す必要があるという意見が多く出ました。それに対して避難訓練を通じて、避難計画を見直していくという提案がなされました。また、行政と地域をつなぐ人がいない、同業でも意思疎通ができていないことがあるとの意見に対し、避難訓練を通じてコミュニケーションする、本プロジェクトのような講演会、意見交換会を継続的に続けることが重要という提案が出ていました。
 応急対策期については、特に上高地における避難について、観光客が想定人数に対し、宿泊施設の収容人数が少ないこと、ヘリの輸送人数が限られることなどが問題となりました。また、行政は判断に時間がかかるため、地域の人がある程度リーダーシップを取って自主的に避難をすすめる必要があるという意見が出ていました。
  復旧復興期については、規制を解除する判断とその発表の仕方が難しいという意見が出たほか、噴火後の観光として、噴火を逆手に取ったアピール、噴火を見たい外国人向け観光など観光の新しいチャレンジが提案にあがっていました。
 
 今回、ステークホルダーが参加することにより、平常時の避難計画策定や発災時の避難について、上高地の現状などより具体的な議論となりました。また、これまで火山防災協議会レベルでは、あまり議論されていなかった復旧復興期の課題を、行政防災担当者と地域ステークホルダーが共有することができました。