■焼岳火山防災 学習会・ワークショップ
■日時:2017年12月22日
■場所:岐阜県高山市飛騨・世界生活文化センター 大会議室
■講師:関谷直也氏
(東京大学情報学幹総合防災情報研究センター准教授)
本プロジェクトでは、地域が主体となる火山防災を発展させるために、防災行政担当者を始めとする地域火山防災関係者が率直な意見交換、課題共有を行う場として、火山防災に関連する講演とグループワーク形式のワークショップを開催してきました。最終年度となる本年度は、昨年度までの意見交換会で出てきた課題を踏まえて、御嶽山噴火以後(本プロジェクト開始後)の火山防災の課題の振り返りと、今後の活動について意見交換しました。
今回の焼岳火山防災学習会・ワークショップは、岐阜県高山市で開催し、行政防災担当者及び気象台、砂防事務所、警察等の火山防災協議会関係者等計23名が参加しました。次世代火山研究者育成プログラムに参加中の大学院生2名にも加わっていいただきました。
午前中の学習会では「風評被害-そのメカニズムを考える」等の著作があり、災害情報・災害心理の分野で活躍しておられます関谷直也氏に情報科学の視点から見た火山防災と風評被害についてご講演いただきました。火山地帯はほとんどが観光地であり、火山災害によって観光業の経済的被害が起こることが多く、地元観光事業者は風評被害に対して大きな関心を持っています。まず、火山地域の住民、観光事業者を主な対象とした「避難促進施設の備え」という内閣府の啓発ビデオの紹介がありました。噴石や火山灰、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、火山ガスなど、起こりうる火山現象や、噴火警報、噴火警戒レベル、臨時の解説情報などの情報の見方を解説しており、観光事業者が自らの安全確保とともにお客さんを適切に避難誘導するための啓発ビデオです。次にダイオキシン、重油流出事故、原子力事故など他の例を見ながら、風評被害とはどういうものを指すのか、定義について解説されました。風評被害とは最初から明確な定義があったわけではありませんが、使われてきた歴史をまとめると「安全が関わる社会問題(事件・事故・環境汚染・災害・不況)が報道され、本来安全とされる食品・商品・土地・企業を人々が危険視し、消費や観光をやめることによって引き起こされる経済的被害」として定義されるということでした。うわさによる人への精神的被害は、報道によるものでないこと、経済的な被害ではないことから、風評被害とは区別されます。また、近年、風評被害が盛んに言われるようになった背景に大々的な報道が行われる情報過多社会、安心・安全を求める安全社会、代替品を求めることができる流通社会があるとのことでした。風評被害を防ぐことは不可能ですが、経済的な被害であるので、保険や基金、公的補償や共済によって対策できるとお話しされました。緊急時、災害対応時には風評被害、経済活動への影響は考えないことが火山防災対策のポイントであるとのことでした。
火山地域の住民は観光で生計を立てていることが多く、風評被害が大きな関心事になっています。風評被害の定義やメカニズム、対策について改めて考える機会となり、防災担当者が今後地域の火山防災を考えていくにあたって大変有意義な講演でした。
午後の意見交換会では、6人ずつの3つのグループに分かれ、御嶽山噴火以後(プロジェクト発足後)の火山防災の課題の振り返りと、今後の活動について意見交換しました。昨年度に行われた観光事業者等のステークホルダーを含めた意見交換会(長野県側・松本市上高地)とこのワークショップに先がけて岐阜県主催で行われた地元観光事業者、住民団体を対象とした意見交換会(岐阜県側・高山市奥飛騨温泉郷)の結果を参考にしながら話し合いました。特に松本市側の意見交換会で問題になった災害時の上高地の孤立化については、トンネルや道路などハード面の整備がどうしても必要という意見の他、岐阜県側で実施しているような毎年の避難訓練や今回行ったような地域意見交換会を長野県側でもやりたいという声が上がっていました。また、非常時の情報伝達や広報の対応について、平時からマスコミと関係を作っておく、マスコミ対応についても訓練しておく、何もなくても定期的に情報を出す等の意見が出ました。また、本プロジェクトのワークショップや現地視察の機会で両県の担当者や気象台等の関係機関の間に顔の見える関係ができ、このようなフリーな意見交換の場の継続を求める声も多く聞かれました。