臨床環境学の手法を応用した 火山防災における 課題解決の開発

地域防災対策支援研究プロジェクト

プロフィール

臨床環境学の手法を応用した火山防災における課題解決法の開発

課題名

臨床環境学の手法を応用した
火山防災における
課題解決法の開発

地域名

岐阜県、長野県、石川県

団体名称

名古屋大学大学院環境学研究科

代表者名

山岡耕春(名古屋大学・地震火山研究センター)

参画者名

  • 中村秀規(名古屋大学・持続的共発展教育研究センター)
  • 杉下尚(岐阜県 山岳遭難・火山対策室長)
  • 平松良浩(金沢大学・教授)
  • 大見士朗(京都大学・准教授)

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2018年1月17日 シンポジウム「中部地方で火山防災を考える」を開催しました

■臨床火山防災学シンポジウム「中部地方で火山防災を考える」

■日時:2018年1月17日

■場所:名古屋大学 野依記念学術交流館 カンファレンスホール

■基調講演:藤井敏嗣氏(山梨県富士山科学研究所所長、東京大学名誉教授)

■活動報告:

    全体:中村秀規氏(富山県立大学講師)

    白山:北出進一氏(白山市総務部危機管理課危機管理係長)

    焼岳:小林慎史(岐阜県飛騨県事務所振興防災課防災係長)

    御嶽山:稗田実(王滝村総務課総務係主査)

■パネルディスカッション:

   司会:山岡耕春氏(名古屋大学教授)

   パネリスト:原久仁男氏(木曽町長)、

   山崎登氏(国士舘大学教授、元NHK解説主幹)、

   大見士朗氏(京都大学防災研究所准教授)、

   北出進一氏(白山市総務部危機管理課危機管理係長)、

   南沢修氏(長野県危機管理部危機管理防災課火山防災幹)、

   岩田秀樹氏(岐阜県危機管理部防災課山岳遭難・火山対策室長)

 

   「臨床環境学の手法を応用した火山防災における課題解決法の開発」プロジェクトのまとめの会として、名古屋大学野依記念学術交流館カンファレンスホールにて、「中部地方で火山防災を考える」シンポジウムを一般にも公開して行いました。プロジェクトでは、これまで、白山、焼岳、御嶽山の3つの中部地方の火山地域を対象として、地域が主体となる火山防災を発展させるために、防災行政担当者を始めとする地域火山防災関係者が率直な意見交換、課題共有を行う場として、火山防災に関連する講演とグループワーク形式のワークショップを開催してきました。本プロジェクトで対象とした火山地域は中部地方にあり、活動度が比較的低いという特徴があります。2014年の御嶽山の噴火では、多数の登山者の方が犠牲となりました。御嶽山の噴火を契機として、活動度が低く、噴火の予兆をとらえるのが難しい火山において噴火としては小規模でも火口付近にいる登山者が大きな被害を受けるという火山災害が新たな火山防災の課題として着目されるようになりました。

プロジェクトは本年度で終了しますが、これまでに行ってきた場づくりはどのような効果があったのか、地域火山防災にどのように寄与できるのか?今後の活動はどうすべきか?について検討し、一般に公開する機会として本シンポジウムを開催しました。プロジェクト関係者、報道機関、一般参加者を含めて84人の参加がありました。

 

<基調講演>

  基調講演では、本プロジェクトの運営委員で噴火予知連絡会前会長の藤井敏嗣氏に「火山防災協議会に期待すること」というタイトルでご講演いただきました。観測データの蓄積のある桜島、有珠山、浅間山等の実例を参照し、噴火予測の基本的な手法を解説いただくとともに、火山防災協議会の法定化への流れや御嶽山噴火後の動き、日本の火山防災の課題、地域火山防災において求められる火山防災協議会の役割についてお話しいただきました。効果的な火山防災のためには、将来的には研究所を中核にした火山調査・研究機構と政府による防災省あるいは危機管理省の設置が望ましいが、住民との接点は火山防災協議会であり、強力な協議会づくりが求められるとのことでした。

 

 

<活動報告>

    次に本プロジェクトの全体の活動報告と各火山地域からの活動報告がありました。全体報告では、地域が主体となる火山防災を発展させるための「場」作りという本プロジェクトの目的、基盤となっている臨床環境学の考え方、プロジェクトに参画している組織、これまでに行われた学習会・ワークショップの概要、などが説明されました。

   白山からの報告では、活動例として白山地域で行われた3回の学習会・ワークショップの概要の他、白峰小学校での火山防災授業、プロジェクト関係者による白山・手取川ジオパークの見学会が紹介されました。特にH28年度の学習会・ワークショップ(意見交換会)では、箱根町の田村洋一氏の講演の他、白峰小学校の児童による火山防災授業についての発表があり、好評であったことが伝えられました。白山は1659年以来噴火しておらず、居住地が火口から遠いため、住民も観光客も白山が活火山であるという意識が低いと言う特徴があります。また、石川県側に世界ジオパーク登録を目指している白山・手取川ジオパークがあり、教育普及活動が充実しています。これまでのワークショップで出た意見として、避難計画や訓練については現実に即したものにするため、地域の方と一緒に検討することが挙げられました。また、ワークショップによって、現場と関係機関の間に顔の見える関係ができ、今後の活動として個々の課題を深めるワークショップ、自衛隊、警察消防等現場機関と避難誘導について話ができる場、コアメンバーの定期連絡会、勉強会のなどのアイデアが出されたことが紹介されました。

   焼岳からの報告では、活動例として焼岳地域で行われた本プロジェクトの学習会・ワークショップの概要の他、岐阜県主催で行われた奥飛騨温泉郷での地域意見交換会の様子が紹介されました。焼岳は、最新の噴火は昭和37年で、噴火を経験した人が少なくなって来ていますが、昨年夏に噴気の報告があり、今回の対象火山の中では比較的活発な火山です。ふもとに上高地、奥飛騨温泉郷などの有名観光地があり、火口が居住地、観光地に近いという特徴があります。平成28年度のワークショップでは、特に災害時に上高地が袋小路となり、避難が困難となる事が議論となりました。平成29年度の奥飛騨温泉郷の地元観光事業者や住民団体を対象としたワークショップでは、地元の人は観光事業者として風評被害を心配していること、年一回の避難訓練で行政側が思っていたほど情報が末端まで伝わっていないことがわかりました。これまでのワークショップで出た意見として、上高地の孤立への対策としては、道路整備などハード面の対処も必要だが、実現には時間がかかるので、H28年の長野県側でのワークショップやH29年の岐阜県主催のワークショップのように観光業者、住民の意見交換会を行って地元の生の声を聞くなどソフト面も重要という意見が挙げられていました。また、人づくり、場作りの観点から本プロジェクトのワークショップは顔の見える関係を築くのに有効であったこと、岐阜県側で行っている実務者の連絡会を長野県側でも、また両県でできないかという話になったことが挙げられていました。

 

  

 

    御嶽山からの報告では、活動例として御嶽山地域で行われた本プロジェクトの学習会・ワークショップの概要の他、H29年7月に開所された名古屋大学御嶽山観測施設が紹介されました。御嶽山地域は2014年の噴火以後、観光客が激減し、地元経済に大きな影響を与えているという問題があります。H28年度のワークショップ(意見交換会)では、観光NPO法人や山小屋、山岳パトロール関係者等など山関係のステークホルダーを含めて御嶽山噴火後の観光・登山・暮らしと今後について話し合い、復興の取り組みの報道は長野県内にとどまり、登山者の多い中京圏に発信されていないなど行政側では把握できなかった意見を聞くことができたとのことでした。今後については、2014年噴火時の担当者が異動の時期にあたり、噴火の記憶が薄れていくことが懸念されるが、現場を見る関係者の登山や共同訓練、担当者の勉強会、ワークショップ等を継続していくことが対策となるという意見が出ていました。

 いずれの地域でも、ワークショップを通じて、担当者間で顔の見える関係が築けたと感じているようで、今後も何らかの形で率直な意見交換の「場」の継続を希望していることが分かりました。

 

<パネルディスカッション>

 パネルディスカッションでは、基調講演、各火山からの報告を受けて、また、中部の火山の特質について、各パネリストからのご意見をいただきました。また、長野県木曽町長・原氏からは、御嶽山の現状の報告もあり、写真を用いて現在の頂上付近の様子をご説明いただきました。

 


 

  各火山からの報告を受けて、岐阜県・岩田氏からは、学習会・ワークショップによって行政担当者の資質が向上した、ここで培われた学習会・ワークショップを通じて担当者の異動による空白期間を埋めるような効率的な研修ができればいいとの感想をいただきました。また、小中学校での火山防災教育や奥飛騨温泉郷での地域意見交換会が大変好評で、来年以降も続けていきたいとのご意見でした。長野県・南沢氏からは、このプロジェクトをきっかけとしてそれぞれの担当者がどんなことについて悩んでいるのか、お互い意見交換ができたということが非常に大きかったとの感想をいただきました。また、7月に開所した名古屋大学御嶽山火山研究施設を活用して火山防災教育につなげていければいいとのご意見をいただきました。石川県白山市・北出氏からは、このプロジェクトで様々な方からの意見やアイデアが出されて非常に有意義であったとのご感想をいただきました。今後は住民だけでなく登山者の避難を真剣に考え、観測機器の充実や火山の専門家の育成も重要との意見をいただきました。木曽町・原町長からは子どもたちに継続して火山防災の学習の機会をしっかり提供していくことが重要とのご意見をいただきました。また、火山専門家として焼岳噴火対策協議会のメンバーに入っておられる京都大学・大見氏は、火山防災協議会の本会議は行政機関以外のステークホルダーの参加者からは発言がはばかられるような雰囲気があるので、今回のプロジェクトで災害発生時に当事者になるステークホルダー、地元の方々の意見を積極的に取り入れることは斬新で有用であったと考えられるとの意見をいただきました。専門家と地元ステークホルダーとの顔の見える関係は意欲があれば長続きさせることができるが、防災行政担当者は異動があるので、知識と経験が継承されないことが問題で、継続的に努力していただくのが重要とのことでした。元NHK解説主幹の山崎氏は、これまでの自然災害現場での取材経験からうまくいった対策は必ず事前の準備があり、そういう意味でこのような取り組みは大切なことであると思ったとのご感想をいただきました。また、風評被害が問題になっているが、行政が常に正しい情報を出し続けていくことが風評を大きくしない一番の力であるとのことでした。

   基調講演「火山防災協議会に期待すること」を受けて、岐阜県・岩田氏は正式な意思決定の場としての協議会と自由な意見交換の場としてのワークショップとを車の両輪のような形でまわしていかなければと話しておられました。長野県・南沢氏は講演にあったように1つの町村、1つの県だけでは対応できることではないので、お互いどう協力してやっていくかそれができるのはやはり火山防災協議会であると思っているとのことでした。石川県白山市・北出氏は火山防災協議会で防災計画、避難計画を策定したが、より実践的なものにするためには訓練等を通じて検証していくことが重要であると思っているとのことでした。京都大学・大見氏からは専門家の立場から、専門家は自分の発言が周囲に及ぼす影響を計算できずに発言してしまいがちなので、理学畑の言葉を行政の言葉にうまく翻訳してくれる行政担当者がいるとありがたいと述べられました。

   今回対象としたような中部地方の火山は、桜島や有珠山のような活動的な火山に比べると活動度が低く休止期が長いので、火山という意識がしにくいということがあります。それに加えて、標高が高く、登山の対象であり、火山と意識せずに地域外から多くの方が集まるという特徴があります。ワークショップの中で、風評被害という言葉がたくさん出てきて、地元の方が大きな問題と考えていることがわかりました。こうしたことを踏まえて山崎氏と大見氏にご意見をうかがいました。山崎氏は、適切な事前避難が行われた2000年の有珠山の噴火を例に挙げて行政、マスメディア、住民、科学者がお互いに関係を強化しながら減災を進めていく必要があると考えを述べられました。また自然が相手であるので、科学の実力を踏まえて科学を防災にどう活かすか、それぞれの協議会で考える必要があるとのことでした。大見氏は、休止期が長い火山は活動再会の前兆がつかみにくく、研究者、行政担当者も含めていつも平穏だと思っており感覚が麻痺してしまっていると指摘しました。具体的な焼岳の群発地震データを示しながら、こうした群発地震が火山活動に結びつかないという根拠はなく、長い目で見ると噴火にいたる地震の増加ではないかとどこかで意識しておかなければと思っているとのことでした。

 今年度で本プロジェクトは終了しますが、いずれの地域でも、ワークショップを通じて、担当者間で顔の見える関係ができたとの声が多く、地域防災への効果も期待できるので、今後も何らかの形で率直な意見交換の「場」を継続したいと考えております。